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医療と健康情報

2005.04.01 更新

患者にやさしい最新の「人工股関節置換術」

[整形外科]樋口 富士男

リウマチをはじめ、老化により股関節の軟骨がすり減る「股関節障害」。特に日本人の場合には二次性の変形性股関節症が多く、閉経後の女性に多い。このような股関節障害に対する治療である「骨切り術」「人工股関節置換術」は以前から行われていたが、最近は患者にやさしい治療法の開発が進められるようになり、かなりQOL(生活の質)が向上してきた。
まだまだ多くの課題が残されているが、どのように開発が進められてきたのか、最前線の治療法にはどのようなものがあるのか。久留米大学医療センター整形外科教授の樋口富士男氏に話を聞いてみた。

課題克服に向け多方面から臨床研究
樋口教授の研究内容をお聞かせください。

私の専門は整形外科学ですが、主に関節障害による外科的治療に携わり、特に人工関節置換術の臨床研究を行っています。近年人工股関節の材質や手術方法も進歩してきましたが、まだまだ多くの課題があります。その中で私は、「様々な自己血輸血」、「低侵襲小切開手術」、自分の骨を温存する「表型面置換手術」、コンピューターを駆使した「ナビゲーション手術」、さらにはこれまで難しいとされていた人工股関節の「再置換術」についても多方面から取り組んでいます。

日本人に多い臼蓋形成不全による二次性変形性関節症
股関節障害の診断方法と治療方法をお聞かせください。

股関節障害は下肢の痛みを訴えますが、同じく下肢の痛みを訴える坐骨神経痛と間違えることがあります。
また、股関節が原因で同じ側の膝が痛くなる関連痛などでは、股関節に病変があるというみきわめが難しいことがあります。しかし、股関節障害の診断に決め手になるのは骨盤のX線検査で、この検査で病名とその重症度が判定できます。
治療法には大きく「骨切り術」と「人工股関節置換術」があります。「骨切り術」は自分の骨を切って移植させたり移動したりして正常な状態に戻す治療で、「人工股関節置換術」は、壊れた自分の関節を外して、人工的に作られた人工股関節に置き換える方法です。このいずれかを選択するには、年齢や障害の程度を考慮しなければなりませんが、40歳ぐらいまでの若い人は骨の治りが早く良好なので「骨切り術」を勧めます。しかし、治療期間が長いこと、術後びっこや痛みが残ることがあることなどを了解していただかねばなりません。
一方、60歳以上の方に対しては、治療期間が短く、痛みのない関節機能が期待できる人工股関節を勧めます。問題は40~60歳までの働き盛りにある方々です。この場合は重症度や患者の要望を勘案して治療法を選択することになります。たとえばリウマチ性股関節炎の場合は、もっと若年でも人工股関節置換術を最近のガイドラインで勧められています。

「骨切り術」と「人工股関節置換術」
股関節障害の患者さんは増加していると聞きますが、その原因についてお聞かせください。

股関節は身体の中心にあり、上半身と下半身のつなぎ目です。この連結部に障害が起こると、痛みにより歩くことすら困難になり日常生活が障害され、ひどい場合には車いすを余儀なくされることもあります。
股関節障害の原因としては、基礎疾患がなく加齢とともに発症する一次性変形性股関節症と「臼蓋形成不全」「大腿骨頭壊死症」「リウマチ性股関節炎」、「股関節の骨折や脱臼などの外傷」そのものやこれらの疾患に続発する二次性の変形性股関節症などが挙げられます。これらのうち最も頻度が高いのが変形性股関節症で、欧米の白人の場合は一次性変形性股関節症がほとんどですが、日本人の場合は臼蓋形成不全による二次性変形性股関節症が圧倒的に多く女性に好発します。
一方、同じアジアでも韓国人や中国人では骨頭壊死症による股関節障害が半数以上を占め、人種や生活習慣によって頻度が異なります。
日本人に多い臼蓋形成不全とは、大腿骨頭を覆う臼蓋の形成が不十分なために荷重が集中して起こるものですが、先天性股関節脱臼の既往がある人に好発します。
ただ、近年は先天性股関節脱臼の予防が普及し、その頻度が減少しましたので、今後は臼蓋形成不全による変形性股関節症は減少し、高齢者の増加と生活の西欧化とあいまって一次性の変形性股関節症が増加するものと思われます。

従来より10倍ほど耐久性示したクロスリンクポリエチレン
人工股関節の材質も改良されていると聞きますが、最近の動向をお聞かせください。

人工股関節は大腿骨にはステムを骨盤(臼蓋)側にソケットを差し込んだものです。一般に大腿骨側の材質を金属でソケットの材質をポリエチレンという組み合わせですが、ポリエチレンを長期にわたり使用すると摩耗粉ができ、人工関節周囲の骨を溶かしてしまうという欠点がわかってきました。その後、セラミック―セラミックや金属―金属など磨耗粉ができにくい材質の組み合わせた人工関節が登場しましたが、まだ最終的な結論は出ていません。
最近は耐久性が改良されたクロスリンクポリエチレンが注目されています。クロスリンクポリエチレンは、ポリエチレンに放射線を照射し分子同志を結合させて強化させたもので、実験上では摩耗粉が少なく、耐久性が従来の金属―ポリエチレンの10倍近くあるといわれています。しかし、このクロスリンクポリエチレンも登場してわずか数年に過ぎず、今のところ問題はありませんが、安全性を確認するには長期的な観察データが必要です。

「小切開手術」「骨温存手術」「再置換術」「自己血輸血」
樋口教授が積極的に研究されている「様々な自己血輸血」、「小切開手術」や、「骨温存手術」「コンピューター支援技術」や「再置換術」についてお聞かせください。

=自己血輸血=
「自己血輸血」は、他人の血液の輸血によって起こる拒絶反応や感染を防止するために自分の血液を輸血する方法です。この自己血輸血には手術の数週間に血液を取り保存しておいて、手術の時に輸血する「貯血式自己血輸血」、手術中や術後に出血する血液を再び身体に戻す「回収式自己血輸血」、そして手術直前に血液を抜き取り代わりに水分と電解質を輸液をして身体の血液を薄め、手術中は薄い血液を出血させ、術後に手術直前に抜き取った血液を輸血する「希釈式自己血輸血」があります。
人工関節手術は緊急手術ではありませんので、手術までの期間を利用して準備します。しかし、リウマチ患者のようにすでに貧血状態の方もおられますし、宗教上の信条で輸血は自己血でも拒否される方もおられますが、それぞれの患者様の状態と希望に応じてこれらの技術を駆使して手術を行っています。

=小切開手術=
皮膚切開についてはこれまで人工股関節置換術では、15~25センチが一般的した。切開は皮膚だけでなく筋肉も切開しますので、切開が大きければ大きいほど回復がそれだけ遅くなります。
私たちは器具や手技を工夫することで傷口を小さくする低侵襲の「小切開手術」を1998年より行っています。傷口はこれまでの半分以下の7~10センチほどで、術中出血量も少なく、患者さんの回復も早くなりました。患者さんの健康状態によっては、両側同時手術も可能で、この場合は一回の麻酔で二つの関節手術ができますので、手術前後のお薬の量が半分になり、入院も一度で済みます。その結果、患者さんやご家族の経済的負担を軽減することにもなります。しかし、傷口が小さいとそれだけ手術は難しくなるので、熟練した高度な技術が必要になります。
=コンピュータ支援手術=
2002年より人工膝関節置換術で実施していますコンピュータ支援手術は、人工関節を身体に正確に設置することができるため、長期にわたる好成績が期待できます。このコンピューターナビゲーション技術を小切開の人工股関節置換術に応用することを検討中です。
=骨温存手術=
「表面置換型人工股関節置換術」は、関節表面の骨を削るだけで、できるだけ自分の骨を温存させるというものです。磨耗粉の産生が少ない材質である金属―金属の素材を用い、骨が温存されているために再置換術が容易だという長所があります。病変が骨表面だけにとどまっている人などに有用です。

=再置換術=
「これまでは困難とされてきた「再置換術」も、専用の手術器械や骨銀行の開発、さらには骨の欠損を補てんする人工骨をこの手術の応用することが可能になってきました。人工骨は摩耗粉によって溶けた人工股関節の周囲の骨を再生させるというものです。

このように人工股関節置換術は毎年進歩しています。2005年にはどのように進歩するのか楽しみです。

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