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平成19年7月31日(火) 読売新聞 掲載

医の達人 QOL高める「人工関節置換術」

[整形外科 教授]樋口 富士男

増加する関節障害「変形性股関節症」「変形性膝関節症」

中高年の女性に多いといわれる変形性関節症。軟骨が磨耗することでやがて関節が変形し、痛みを伴うようになる。特に股関節と膝関節に起こる変形性関節症は、歩くことさえ困難を来すこともあり、早めの治療が肝心だ。治療法も様々だが、中でも「人工関節置換術」は人工関節の材質やデザイン、あるいは多くの問題点を克服しながら進歩を遂げ注目を浴びている。そこで、今回は久留米大学医学部整形外科学講座・久留米大学医療センター整形外科教授の樋口富士男氏に変形性股関節症の疾患と、人工関節置換術を含めた治療法、最近の動向などを聞いてみた。

クッション役の軟骨が磨り減り、関節が変形
まず、歩行をはじめ日常生活に支障を来す下肢の関節障害とはどのような疾患なのでしょうか。

関節のクッション役を果たす軟骨が退行変性により磨り減り、痛みが生じる関節障害を「変形性関節症」といいます。下肢の関節障害には「変形性股関節症」や「変形性膝関節症」があり、歩行や立つ座るといった動作が困難となり、ひどくなると車いすを余儀なくされることがあります。  変形性関節症には、加齢による老化現象として起こる「一次性変形性関節症」と、明らかな外傷や病気による「二次性変形性関節症」の大きく2種類があり、日本人の股関節は特に女性において「二次性変形性関節症」が多いです。二次性関節症は、股関節では「臼蓋形成不全」「大腿骨頭壊死症」「リウマチ性股関節炎」「股関節の骨折や脱臼などの外傷」、膝関節ではリウマチ膝関節炎や半月板・靱帯の損傷、スポーツ障害などがあります。中でも日本人に多い臼蓋形成不全は「先天性股関節脱臼」に起因する疾患で、大腿骨頭を覆う臼蓋の形成が不十分となり、股関節の変形をもたらします。ただ、現在は先天性股関節脱臼の予防法と治療法が確立されており、臼蓋形成不全の発生頻度は減少しています。逆に、高齢化社会が進展していく中で、大腿骨頚部骨折が増加する傾向にあり、今後は「二次性」は減り、「一次性」が増加するものと思われます。いずれの関節障害も症状は似ていますが、診断には大きな差があります。膝関節は表面にあって、触診でも分かりますし、視診でも腫れていたり、変形性膝関節症特有のO脚やX脚が認められるので診断しやすいです。これに対して股関節は深部に位置し、視診では変形が分かりにくく、坐骨神経痛に見間違いやすいです。あぐらがかきにくい、あるいは靴下が履きにくいなどの症状があれば股関節障害が疑わしいですが、レントゲンやMRIなどの画像による診断が有効です。

まずは薬物療法、装具療法、運動療法など
変形性股関節症ならびに変形性膝関節症に対してどのような治療法が用いられるのですか。

関節障害の程度にもよりますが、軽度であればまず、痛みを緩和させることから始まり、鎮痛剤や内服薬、塗り薬、貼り薬などの薬物療法を行います。また、膝関節障害では、軟骨の栄養成分である「ヒアルロン酸」を関節内に直接注射する治療もあり、保険適用となっています。しかし、股関節に対しては技術的に難しく保険適用にはなっていません。また、これら栄養成分を服用する方法もありますが、関節内には血管が通っておらず、私は直接注射する方法がいいと思います。
薬物療法以外では、運動療法や理学療法、装具療法などがあります。装具療法を例に挙げると、膝関節障害に対しては、O脚を矯正する目的に外側が高くなった靴底を用いる方法やストラップを足首に固定した足底板や、膝に直接サポーターを付ける方法も行われています。
しかし、これらの治療方法でも改善が見られない場合には外科的な治療法として手術を行います。

骨吸収を防げば人工関節の延命化も
具体的な手術法についてお聞かせください。

手術には大きく「骨切り術」と「人工関節置換術」があります。「骨切り術」は、自分の骨を切って移植させたり移動させたりして正常な状態に戻す治療で、「人工関節置換術」は、壊れた関節を外して人工関節で置き換える治療です。変形性股関節症、変形性膝関節症のいずれにおいても、どちらを選択するかは年齢や病態、人工関節の耐用年数などが考慮されます。一般的に、若い人には「骨切り術」を、高齢者には「人工関節置換術」を勧めています。といいますのは、人工関節置換術を若い人に行うと、活動性が高いために人工関節が早く傷み、再置換術を余儀なくされるからです。
また、変形性膝関節症では、関節鏡カメラを用いて、画像を見ながら痛みの基となっている半月板(軟骨)を修正する治療を行うことがありますが、一時的に症状は緩和されても長期的にわたっていいという保障はなく、変形があればいずれ「骨切り術」「人工関節置換術」が必要になってきます。
これまで耐用年数が10年~20年といわれていた人工関節もかなり進歩してきました。金属‐金属、セラミック‐セラミック、金属‐ポリエチレンなどが試行錯誤されてきましたが、今ではポリエチレンに放射線を照射し分子同士を結合させた強固な「クロスリンクポリエチレン」が登場し、現在臨床応用されています。ポリエチレンの摩耗粉が骨を溶かす(骨吸収)という問題点も改善され、理論上では耐用年数が従来の人工関節の10倍ほどといわれており、今後若いうちからでも人工関節置換術が可能ではないかと期待しています。しかし、「クロスリンクポリエチレン」が臨床応用されてまだ10年ほどで、安全性に関する長期データが出ておりませんので、安全性を追究していく必要があります。それでも、他に治療法がないリウマチによる関節疾患に限っては20歳代からでも人工関節置換術が適応される旨のガイドラインが発表されており、積極的に置換術を行う必要があります。
また、最近は膝がよく曲がる人工関節が登場してきており、注目されています。ただ、これについても長期にわたって安全性を確認していく必要があると思います。
このように、人工関節の材質やデザインも以前にも増して改良されつつある中で、私は骨を強くする治療にも力を入れています。いかに材質などが改良され耐用年数が長くなったとしても、その土台である骨が弱くては将来弛緩や骨吸収などの恐れが出てきます。そこで、骨吸収を防ぎ、骨を保護する目的として現在利用されているビスフォスフォネート製剤やビタミンKなどの骨粗鬆症の薬を使用することで、骨の吸収を抑制し、人工関節の寿命を長くする可能性があるのではないかと考えています。実は、関節障害による痛みが多いのは、閉経後の50歳前後で、ちょうど骨粗鬆症が起こり始める時期と合致しており、関節障害と骨粗鬆症は密接に関係していると思います。実際に骨粗鬆症の治療により痛みがとれたという事例もあるほどです。ただ、現在のところ骨粗鬆症と診断された場合にのみ薬物を用いることが保険で適用されているので一般的ではありませんが、私は大変有望だと思います。

ナビゲーション手術や小切開手術など導入
変形性膝関節症と変形性股関節症に対する手術について、
樋口教授はどのような姿勢で臨んでいますか。

私は、変形性膝関節症と変形性股関節症の治療に当たっては患者さんの立場に立ち、できるだけ負担のかからない方法で臨んでいます。特に「人工関節置換術」において、膝関節では正確さを期すためコンピューターを駆使した「ナビゲーション手術」の導入、股関節では低侵襲で出血が少ない「小切開手術(MIS=Mimally Invasive Surgery)」、さらには手術中の輸血では、拒絶反応や感染を防止するために他人の血液を用いず、患者さんの血液を回収する自己血輸血や貯血式を取り入れています。「再置換術」には人工骨を応用することも積極的に行っています。

外科医の熟達した技量と最新の薬物治療で合併症を予防
術後のケアや日常生活の注意点などお聞かせください。

先ほど申しました脱臼とともに、人工関節置換術後に心配される合併症に感染があります。手術時間が短いほど感染率も出血量は少なくなるので、術者の技量が大きく影響してきます。また、最近は整形外科領域でも術中・術後に発症するとして問題点になっている「肺塞栓症」には、「血管損傷」「血流のうっ滞」「血液凝固能の亢進」の3つの要因があります。このうち「血液凝固能の亢進」はいわゆる血液ドロドロのことで、患者さんの体質が関係しますが、あとの2つは外科医の技術によって防ぐことができるものです。外科医の熟達した技量が求められています。現在、血液の溶解と凝固のバランスの取れた薬剤や、あるいはフットポンプなどの予防器具も登場するなど、肺塞栓症に対する予防も確立されつつあります。
安全性に関連して、これまで人工関節を固定するために「骨セメント」が使われていましたが、セメントを使わない人工関節にも機能のよいものが出始めましたので、様々な合併症を避けるために、私は特殊な場合を除いてできるだけ骨セメントを使わないようにしています。
術後の日常生活の注意点としては、術後6カ月ぐらいまでは用心しなければなりません。いくら器具がよくなっても人間の治癒力は昔と何ら変わっていませんから。激しい運動を避け、場合によっては杖を用いることで、少しでも器具に負担をかけないように心がけることも大事です。6カ月すぎても運動もジャンプを伴ったり、チームプレーを要するスポーツよりは、個人プレーのゴルフ、テニスでもダブルスまでは大丈夫だと思います。

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